二度とない人生を⑩

幸福とは求めるものでなくて、与えられるもの。自己の為なすべきことをした人に対し、天からこの世において与えられるものである。
引き続き、森先生の一代記について略記すれば、恩師西晋一郎先生の勧めによって、満州新京に創設の建国大学教授に就任するも在勤七年にして敗戦となり、辛酸をなめ、零下三十度の廃屋に凍餓死寸前を助けられ、遂に生還帰国。その後遍歴行脚の旅を続け、軌道に乗りかけたところ、開頑社倒産の浮目に遭い、大きな借財を背負いつつ、再起し、神戸大学教授に迎えられ、勤続七年。定年退官後は、正に凄絶な旅の講演行脚と、自在な執筆活動が相俟って、七十歳にして、全集二十五巻の刊行に着手され、一代の結実を観るに至られました。その後も幾多の「山また山」の苦難の中も、めげることなく、全国同志の支援を受けつつ、能うかぎりの献身と奉仕にあけくれました。そして遂に、円在自在の境涯に恵まれ「全一学」五部作の執筆に至られました。これが後年、続全集八巻として実を結ぶのであります。
自分の考えをまとめるというのは、簡単なようでいて実に難しいものです。 森信三先生が生涯をかけて執筆を続けられたのは、まさに先生にとっての「為すべきこと」だったのだと思います。 幸福とは求めるものではなく、天から与えられるもの――この言葉を読むと、人生の目的とは「自分の使命を見つけ、それに真剣に取り組むこと」に尽きると感じます。
未来に何を残していけるのかという視点は、年を重ねるほどに重みを増します。 事業もまた一つの表現であり、それを通して人の役に立ち、社会に少しでも貢献できるなら、それこそが与えられる幸福なのかもしれません。 私自身の「為すべきこと」は何か――そう問いながら、一つひとつの仕事を丁寧に積み重ねていきたいと思います。
#心魂にひびく言葉 #森信三 #寺田一清