第三十八夜 有無の世界

芭蕉の句に
古池や蛙とびこむ水のおと
というのがあるが、この句の「おと」というのは、ただの音と聞いてはいかんよ。
この音は、有の世界から無の世界に入るときの音と悟るべきなんだ。木が折れるときの音、鳥獣が死ぬときの声と同じだよ。もしこれを、ただの音とすれば、この句ってのは、ほめるところは何もないってことさ。(続一三)
芭蕉の名句「古池や蛙とびこむ水のおと」は、ただの風流や写生ではない。この「おと」を、ただの「音」として受け取ってしまえば、句の深さは見えてこない。二宮翁はここに、「有の世界から無の世界に入るときの音」という深い洞察を与えてくれる。
木が倒れるとき、鳥や獣が命尽きるとき、人がこの世を去るとき——そこに残るのは音であり、その音は存在が消える瞬間を告げる。蛙が水面にとびこむ音とは、命あるものが「形」を捨て、「無」へと融けてゆく音でもある。
何気ない自然の一瞬に、永遠の理を聴き取った芭蕉。そしてその深意を明確に言語化した二宮翁。詩とは、無限を聞き取る力でもあるのだ。
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