第四十四夜 原因も結果も大事

仏教では悟道という。これはなかなか面白い考え方だが、一面、人道を害することがあるんだな。
それはたとえば、生者必滅(生きてるものは必ず死ぬ)、会者定離(会えば必ず別れる)というように、その本源を表しているからなんだ。しかしそれは、草の根はこんなもんだといちいち引き抜いて見せるようなもんで、理屈はそうかもしれんが、実際にはそうすればみな枯れてしまうわけだ。
儒教では草の根について言わない。草の根を実際には見なくてもよしとして、草木は根によって生育するものだから、根こそ最も大切なもんだ。それをよく養い育てるのが大切なことだ、と教える。これらは理屈であって、実際の応用がむずかしいな。
松の木が青々と見えるのも、桜の花の美しく匂うのも、土中に根があるからなんだ。蓮華のよい香りも、花菖蒲のきれいなのも泥中に根があるからだ。また質屋の倉が立派なのはその根というべき質入れをする貧乏人が多いからで、大名の城の広大なのは領分に人民が多く、したがって上納が多いからなんだ。
もし松の根を切ればたちまち緑の先は弱まり、二、三日もたてば枝も葉もみんな枯れちまう。人民が貧乏すれば、主君も貧乏になり、人民が富裕になれば、主君も富裕となる。ということは明々白々の事実で、少しの疑いのない道理なんだな。(一六九)
仏教の悟道は、生者必滅、会者定離といった「この世の根本的な無常」を示す。しかし二宮翁は、それが一面で人道を害することがあると説く。草の根をすべて引き抜いて「これが本質だ」と示せば、草は枯れてしまうのと同じだと。
儒教は、草の根を見せるのではなく、根を養い育てることを教える。松が青々と茂り、桜が香るのも、見えない根のおかげだ。質屋が立派に立つのも、質入れする人がいてこそ。大名の城が広大なのも、領民の数があってこそ。
この教えは、組織や経営に通じる。根(現場、顧客、社員)が弱れば、幹や花(会社のブランド、売上、経営者自身)もすぐに枯れてしまう。目に見えるものにばかり心を奪われず、根を養い続けること。その当たり前を忘れないでいたい。
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