第三十八夜 有無の世界
Release: 2025/06/23 Update: 2025/06/23
芭蕉の句に
古池や蛙とびこむ水のおと
というのがあるが、この句の「おと」というのは、ただの音と聞いてはいかんよ。
この音は、有の世界から無の世界に入るときの音と悟るべきなんだ。木が折れるときの音、鳥獣が死ぬときの声と同じだよ。もしこれを、ただの音とすれば、この句ってのは、ほめるところは何もないってことさ。(続一三)
芭蕉の名句「古池や蛙とびこむ水のおと」は、ただの風流や写生ではない。この「おと」を、ただの「音」として受け取ってしまえば、句の深さは見えてこない。二宮翁はここに、「有の世界から無の世界に入るときの音」という深い洞察を与えてくれる。
木が倒れるとき、鳥や獣が命尽きるとき、人がこの世を去るとき——そこに残るのは音であり、その音は存在が消える瞬間を告げる。蛙が水面にとびこむ音とは、命あるものが「形」を捨て、「無」へと融けてゆく音でもある。
何気ない自然の一瞬に、永遠の理を聴き取った芭蕉。そしてその深意を明確に言語化した二宮翁。詩とは、無限を聞き取る力でもあるのだ。
#二宮翁夜話
#二宮金次郎 #二宮尊徳
#読書感想文
#読書記録
#旭川
#旭川市
#KindleUnlimited
#Kindle_Unlimited
#kindle
関連コンテンツ
訪れてきた者に、ワシが「誰それの家は無事にやっているかね」とたずねたら、その者が言うに、「あの人の父親は家業に精を出し、村でも一番の働き者だったんで、儲けも多く、豊かな暮らしぶりだったが、その子は、と…
仏教では悟道という。これはなかなか面白い考え方だが、一面、人道を害することがあるんだな。 それはたとえば、生者必滅(生きてるものは必ず死ぬ)、会者定離(会えば必ず別れる)というように、その本源を表…
天理と人道の違いをはっきりと区別できる人は少ないんだ。 人間であれば欲がある。これは天理というものだ。まるで田畑に草の生えるのと同じなんだ。堤は崩れ、堀は埋まり、橋は朽ちる。こういうのはみんな天理な…
この世にには、人の道を説いた書物が数えきれないほど出ているが、一つとして癖のない完全なものはない。 これは釈迦も孔子もみな人間だからなんだよ。儒学の四書五経だって、仏教のお経だって、みんな人間が書い…
ほととぎすなきつるかたをながむれば ただ有明の 月ぞのこれる この歌の意味は、たとえていえば、昔の鎌倉時代には首都として繁華を極めたが、いまでは、その跡だけが残っていてもものさびしいありさまだなあ、…