二度二度とない人生を⑱二度

たった一枚のハガキで、しかもたった一言のコトバで、人を慰めたり励ましたり出来るとしたら、世にこれほど意義のあることは少ないであろう。
「私は人生の達人には到底なれなくとも、せめてハガキ書きの達人になりたいものです」と直接、先生の口からお聞きしたことがあります。全生涯に書き残されたハガキや手紙は、実に膨大なもので、その量は著述の執筆よりはるかに多いと聞き及んでおります。またその内容たるや、慈言に満ちたもので、同志道友の人間洞察の上に立っての一言一句に、限りない慈心懇情のほどを感じないわけにはまいりません。そして、著述の執筆よりも、書信の返事を何より優先されたところに、森先生の真骨頂ありと私は信じております。八十六歳で脳梗塞を患い弊れられてより、半身不随となりつつも、次第に回復されるにつれ、一日三枚のハガキを悲願として、不自由なマヒの右手をもって短い言葉ながら書きとどめられました。正にハガキの名品とも言えましょう。
ハガキを書く習慣のない私にとって、この話は本当にすごいことだと感じます。 普段から文字を書くこと自体が少なくなっており、会社でも注文請書や印刷指示を書く程度です。 しかし、丁寧に文字を書く、人が読んで心地よく感じるような文字を書く―― それだけでも、心を整える修養の一つなのかもしれません。
ハガキとなれば、なおさら相手のことを考えずには書けません。 短い言葉の中に思いを込めるには、相手の立場に立つ想像力が必要です。 だからこそ、森信三先生が「ハガキ書きの達人になりたい」と語られた意味が、少しわかるような気がします。
考えることは大切なことですね。 そして、言葉にして伝えることは、もっと大切なことです。 たった一言でも、人を励ます力を持つ――その心を見習いたいと思います。
#心魂にひびく言葉 #森信三 #寺田一清








