第三十四夜 善と悪
善悪の理屈ははなはだむずかしいもんだ。がんらいは、善と悪というのはないんだよ。 善をいうから他方に悪というのができてくるんだ。善悪は人間の考えからできたもんで、人道上のもんなんだ。だから人間がいなけ ・・・
善悪の理屈ははなはだむずかしいもんだ。がんらいは、善と悪というのはないんだよ。 善をいうから他方に悪というのができてくるんだ。善悪は人間の考えからできたもんで、人道上のもんなんだ。だから人間がいなけ ・・・
九の字に点を一つ加えて丸の字をつくったのは面白いな。〇というのは、つまり十なんだ。十はとりもなおさず一ということになる。 元旦やうしろに近き大晦日 というワシのつくった俳句があるが、これも十はつまり ・・・
この世にある万物は、陰と陽の片方だけでは、あと継ぎをつくっていくことはできない。 父母がなくとも子どもができるのは草木だけなんだよ。草木というのは、空中に半分幹や枝を出し、地中に半分根をはって育って ・・・
火を制するのは水。陽を保つものは影。世に富者があるのは他方に貧者がいるからだ。 この貧富の道理は、ようするに寒暑、昼夜、水火、男女などみな相手方とお互いに力を合わせ、もち合って受け継いでいくのと同じ ・・・
儒教では循環といい、仏教では輪廻転生といっているのは、つまり天理天道なんだな。 循環とは春は秋になり、暑は寒となり、盛は衰に移り、富は貧に移るという、輪、転というのもまた同じことだ。 仏教では、輪廻転 ・・・
彼岸という文字は「梧窓漫筆」(太田元貞著、学芸道徳に関する随筆集)という本によれば、もとは儒書から出たもんだと書いてある、という学者がいたのでワシはこう言ってやったんだよ。 「文字の出所はよく知ら ・・・
この世のすべてのことは、みんな一つの道理によって貫かれてるんだ。一つに草を例にひいてこの道理を説明してみよう。 儒教の書物(中庸)に「この本は、はじめは一つの道理について説明し、中ごろでは広く各方 ・・・
下館候(下館藩主、いまの茨城県下館)の宝物倉が火事となり、大切な宝物の天国の剣が焼けてしまった。 役人が城下の富商中村という者に「こんなに焼けてしまったが当家第一の宝物なのでよく研いで白鞘にして倉 ・・・
訪れてきた者に、ワシが「誰それの家は無事にやっているかね」とたずねたら、その者が言うに、「あの人の父親は家業に精を出し、村でも一番の働き者だったんで、儲けも多く、豊かな暮らしぶりだったが、その子は、と ・・・
貧乏になったり、金持ちになったりするのは偶然のことではないんだ。 金持ちも金持ちになる原因があり、貧乏も貧乏になる原因というものがあるんだな。人々は財貨というものは自然に富者のところに集まるものだと ・・・